一番大きな違いは、ベンダーと成果を作るSierraか、自社で改善を回すDecagonか
SierraとDecagonは、対応チャネルや外部システム連携だけを見るとかなり似ています。
どちらもチャット、メール、音声へAIエージェントを展開でき、CRMやヘルプデスクなどの既存システムと接続しながら、回答だけでなく実際の処理まで行えます。Sierraはチャット、SMS、WhatsApp、メール、音声、ChatGPTへ同じエージェントを展開でき、DecagonもChat・Voice・Emailを一つのAI基盤で扱います。
それでも両社の方向性は少し違います。
Sierraは、AIエージェントそのものだけでなく、導入後もSierra側の専門チームと継続的に成果を作っていくことをサービスの一部として強く打ち出しています。
公式には「long-term partnership」として、エージェント開発チームが導入を支援し、AIの進化に合わせて継続的に改善していく考え方を示しています。料金もOutcome-based pricingで、エージェントが生み出した価値に対して支払う設計です。
一方、Decagonは企業側がAIエージェントを自分たちで持ち、CXチーム自身が継続的に改善できることをかなり強く押し出しています。
Agent Operating Procedures(AOPs)では、CXチームが自然言語でエージェントの業務ロジックを書き換えられます。技術チームはGuardrailやIntegration、Versioningを管理しながら、毎回エンジニアへ実装依頼を出さなくてもCX側で改善できます。
つまり最初の分け方としては、
AIエージェントをベンダーと共同で育てながら、成果そのものを重視したい → Sierra
AIエージェントの構築・改善を自社CXチームの能力として持ちたい → Decagon
と考えると分かりやすいです。
料金はSierraだけ明確に「成果」を中心にしている
SierraはOutcome-based pricingを料金体系の中心にしています。
問い合わせ解決、予約完了、解約防止、アップセルなど、企業ごとに定義した価値あるOutcomeが発生したときに料金を支払う考え方です。
つまりトークン数やSeat数、単純な会話件数ではなく、
AIエージェントが何を達成したか
を料金の基準にします。
ただし、公開サイトには「1 Outcome○ドル」のような一律の固定価格は出ていません。
企業ごとにOutcomeの内容も価値も違うため、実際の料金は個別契約になります。
Decagonも公開サイト上で標準の固定料金表は出しておらず、導入はデモ・個別見積もりが基本です。
そのためSierraとDecagonを、
「月額いくら安いか」
で直接比べることはできません。
違いは、価格そのものより契約の考え方です。
Sierraは「価値が発生したときに支払う」という考え方を明確なプロダクト思想として持っています。
Decagonは、AIエージェントを企業側で構築・改善・運用するプラットフォームとして提供し、実際の契約条件は個別に決まります。
そのため、料金を比較するときは、
成果に連動した支払いを重視するならSierra
自社でエージェント運用を持つ前提で、利用規模や要件ごとに契約したいならDecagon
という見方になります。
エージェントの作り方はGhostwriterとAOPsで思想が違う
両サービスとも、現在ではエンジニアだけが設定を書くサービスではありません。
SierraにはGhostwriterがあり、自然言語で「エージェントにどう振る舞ってほしいか」を伝えることで、Workflow、System Integration、Guardrail、Tone、Styleなどを作成・変更できます。
また、より複雑なロジックをコードとして管理したい開発チーム向けにはAgent SDKもあり、シミュレーション、デバッグ、システム連携などを開発ワークフローへ組み込めます。
DecagonではAgent Operating Procedures(AOPs)が中心です。
AOPは、人間のオペレーターへ渡す標準業務手順のように、自然言語でエージェントの処理手順を定義する仕組みです。
たとえば、
返品条件を確認する
→ 注文情報を取得する
→ 条件を満たせば返金処理
→ 例外なら人間へエスカレーション
といった処理をAOPとして管理します。
CXチームは自然言語でAOPを変更でき、技術チームはGitベースのVersioningやGuardrail、Integrationを管理できます。
SierraにもDecagonにもノーコード的な構築と技術チーム向けの高度な制御があります。
差が出るのは、
自然言語からSierra側のエージェント構築を進める → Ghostwriter
企業の業務手順そのものをAOPとして自社で管理する → Decagon
という部分です。
業務ロジックを社内の資産として細かく管理したい企業には、DecagonのAOPという考え方はかなり分かりやすいです。
自己改善はDecagonが特に強く打ち出している
Decagonは2026年にDuetとDuet Autopilotを大きく拡張しています。
Duetは過去の顧客会話を分析し、AOPの不足や改善点を見つけ、自動で新しいAOP案を作成します。
さらにDuet Autopilotでは、本番環境のシグナルから改善案を作り、テストまで自動実行し、問題がなければ人間の承認待ち状態まで持っていきます。変更内容はVersioningされたWorkspaceへ入り、人間の確認なしで勝手に本番へ反映される仕組みではありません。
つまり、
本番会話を見る
→ 問題を発見する
→ 改善案を作る
→ テストする
→ 人間が承認する
という改善サイクルそのものをAIで短縮しようとしています。
Sierraも継続改善の機能は強力です。
Ghostwriterでエージェントを変更でき、Explorerでは自然言語で顧客会話を分析できます。Automated Monitoring、Testing、Insightsなどもあり、Experimentsでは異なるエージェント設定をA/Bテストして、ResolutionやChurn ReductionなどのOutcomeへどう影響したかを確認できます。
そのため、
「Sierraは改善できない、Decagonだけ自己改善する」
という比較ではありません。
違いはDecagonが、改善作業そのものを自社CXチームへ渡し、その反復をDuetで自動化することを強く製品の中心へ置いている点です。
AIエージェントの改善を企業内に蓄積したいなら、この違いは選択に影響します。
本番会話の監視はDecagonのWatchtowerが分かりやすい
企業向けAIでは、本番に出した後の監視も重要です。
DecagonにはWatchtowerがあります。
WatchtowerはAIだけでなく人間のサポート担当者を含めた会話を継続的に監視し、企業が自然言語で設定した基準に対して全会話をQAできます。
コンプライアンス違反、ネガティブな感情、Upsell機会、製品への不満などを定義しておけば、Watchtowerが対象会話を継続的に検出します。
従来のコールセンターQAのように、人間が全体の一部を抜き取って確認するのではなく、すべての会話へ評価基準を適用する考え方です。
Sierra側にもTesting、Automated Monitoring、Insights、Explorerなどがあり、エージェントがなぜその判断をしたのかを確認しながら改善できます。
この点でも機能の有無だけなら大きな差ではありません。
ただ、DecagonはWatchtowerという独立した運用QA機能をかなり明確に打ち出しているため、既存のCX品質管理チームがAIエージェントも同じように監視したい場合は理解しやすい構成です。
Voiceや複数チャネルは、どちらもかなり広く対応している
以前ならチャネル対応がサービスを分ける大きな差になりましたが、現在はSierraとDecagonの両方がかなり広くなっています。
Sierraは、Voice、Webやアプリ上のChat、WhatsApp、Apple Business Chat、SMS、Email、ChatGPTへ同じAIエージェントを展開できます。
Voiceでは着信・発信の両方に対応し、背景ノイズや割り込みへの対応、感情に応じたTone調整、55言語以上への対応なども公式に案内されています。
DecagonもChat・Voice・Emailを一つのIntelligence Layerで扱います。
既存のSalesforce、Intercom、Zendesk、Amazon Connect、RingCentralなどとも接続でき、Chat、Email、Voiceから人間へエスカレーションする仕組みもあります。
さらに2026年にはOutbound VoiceとUser Memoryを組み合わせたProactive Agentsが追加されました。
過去の会話を覚えながら、必要なタイミングで企業側から顧客へ電話をかけることもできます。
そのため、
「Voiceを使いたいからSierra」
「Emailを使いたいからDecagon」
といった選び方はしにくくなっています。
チャネル対応そのものは、現在では大きな決め手になりにくい部分です。
長期的な顧客関係までAIに持たせるならSierraのHorizonが特徴的
2026年のSierraで大きな追加となっているのがHorizonです。
従来のAIカスタマーサポートは、一つの問い合わせを受けて、その場で解決することが中心でした。
Horizonは、一度の会話だけではなく、数日・数週間・数か月にまたがる一つのOutcomeをAIエージェントが継続的に追います。
たとえば医療分野なら、
紹介状が発行される
→ 患者へ連絡する
→ 予約する
→ 保険承認を待つ
→ 必要書類を確認する
→ 再度患者へ連絡する
という一連の流れを、毎回別の問い合わせとして扱わず、一つの長期的な顧客Journeyとして管理します。
Context EngineやPersistent Memoryを使い、過去の顧客情報や会話を踏まえて次の行動を判断します。
DecagonにもUser Memoryがあり、顧客コンテキストをSessionやChannelをまたいで保持できます。
Proactive Agentsでは、そのMemoryを使って企業側から顧客へ連絡することもできます。
そのためMemory自体はSierraだけの機能ではありません。
ただ、SierraはHorizonによって、
長期間にわたる一つのビジネスOutcomeをAIが追い続ける
というところまでプロダクトとして独立させています。
サポート問い合わせの自動化だけではなく、契約更新、解約防止、予約完了、金融手続きなど、長期間続く顧客JourneyをAIへ持たせたい場合はSierraの方向性がよりはっきりしています。
結局SierraとDecagonのどちらを選ぶ?
AIエージェントが生み出す成果そのものを重視し、Sierra側の専門チームと長期的にエージェントを育てながら、顧客との関係全体までAI化したいならSierraを選びやすいです。
Outcome-based pricing、Horizon、Context Engineなどを見ると、問い合わせ件数を減らすことだけではなく、解約防止、売上、予約完了など企業側のOutcomeまでエージェントに持たせたい場合に方向性が合っています。
CXチームが自分たちでAIエージェントの業務ロジックを管理し、本番会話から改善点を見つけ、継続的に更新する運用を社内に持ちたいならDecagonが選びやすいです。
AOPs、Duet Autopilot、Watchtowerまで一つの改善ループにつながっているため、AI Agentそのものを企業側の運用能力として育てたい場合に強みが出ます。
以前なら、
Sierra = 成果とパートナーシップ
Decagon = 自己改善
というかなり単純な分け方でも成立しました。
現在は両社とも自然言語による構築、テスト、監視、Memory、Voice、Proactive対応まで持っているため、その差はかなり縮まっています。
最終的には、
AIエージェントを成果まで含めてサービスとして任せる → Sierra
AIエージェントを自社CXチームが継続的に育てる → Decagon
という違いで考えるのが一番分かりやすいです。
まとめ
SierraとDecagonは、どちらも大企業向けのAIカスタマーサポート基盤として、Chat・Email・Voice、外部システム連携、テスト、監視、Memory、Proactive対応までかなり重なるようになっています。
そのため、機能一覧だけでは選びにくい2サービスです。
Sierraは成果ベースの契約と長期的な顧客Journeyまで含めたエージェントを重視し、Decagonは企業自身がAIエージェントを構築・監視・改善し続ける仕組みを強くしています。
どちらの機能が多いかではなく、AIエージェントの運用主体をどこに置くかを見ると、選びやすくなります。